社会保険料の処理・仕訳のコツ

会計・経理処理

本ページでは、「社会保険料」(健康保険料・厚生年金保険料)の経理上の取り扱いについて解説しました。特に、社会保険料の(役員・従業員からの)徴収時期および仕訳処理について 深く掘り下げました。会社設立をお考えの方、設立後であっても 再度確認しておきたい方は、是非参考になさってみてください。

社保は『会社と個人で折半』

社会保険料(厚生年金保険料・健康保険料)は、皆さんご存知のとおり、老後の生活資金や医療費等を支える資金の元になっているお金です。

給与の額に応じて保険料が増減し、給与の30%程度に相当する保険料を納めることになりますが、会社 と 個人(役員&従業員) が半分ずつ(約15%ずつ)負担しています(その他、少額ですが「児童手当拠出金」があります。全額会社負担です)

社保は『条件を満たした加入月から満額徴収』

被保険者の資格取得条件

厚生年金&健康保険の加入条件(資格取得要件)を簡単に申しますと、①「一般社員の所定労働時間&労働日数の4分の3」を上回る勤務形態で正規雇用される予定であること、あるいは ②「勤務実績で 一般社員の4分の3以上の労働時間」となっていて 且つ 今後もその勤務形態を継続する見込みであること などです。年齢は、70歳未満の人が対象です。

「4分の3以上の労働時間&労働日数」を働く前提で正規雇用される場合、つまり正社員として会社に入社した場合は、「入社日=資格取得日」あるいは「事実上の雇用関係になった日=資格取得日」として扱われます。3月25日に正社員として入社(給与の発生する日が開始)したなら、「3月」が「資格を取得した月」になります。

資格取得月の分から満額徴収

社会保険料は、資格取得条件を満たした月から「満額徴収」となります(=被保険者資格を取得する)。前述の「3月25日に正規入社」なら、「3月分の社会保険料」(1か月分満額)から納付することになります。日割り計算とはなりません。翌月徴収・翌月納付 が原則です(詳細は次項)。

保険料の支払いが確定するのは、月末に在籍しているかどうか

前述のとおり、社会保険加入のタイミングは「入社した月」なのですが、保険料の支払いが確定するのは、月末に在籍しているかどうかで決まります。

社会保険(厚生年金及び健康保険)は、「退職した日の翌日に厚生年金(健康保険)の被保険者資格を喪失する」と定められていて、併せて「資格喪失日が属する月の前月分まで保険料を納める」となっています。

例えば、3月分の社会保険料の納付義務が確定するには、3月31日まで勤務することが条件となります( ⇒ 資格喪失日は “4月1日” ⇒ 資格喪失日が属する月の前月である “3月分” の保険料を納付することが確定 )。3月30日に退職した場合は、2月分までの社会保険料を支払うことになります。

社保は『翌月徴収・翌月納付』が原則

ここで、役員・従業員の社会保険料をいつ天引きし&納付するのかということですが、原則的には『翌月徴収・翌月納付』となっています。つまり、翌月になってから当月分を被保険者から徴収し、翌月に法人負担分と合算して納付します。

具体的に言うと、「3月給与分の社会保険料」は、4月給与から天引きし、(3月に費用計上した会社負担分と合算して)4月末に年金事務所に納付するということです。

ちなみに、この「翌月徴収・翌月納付」という徴収・納付方法は、健康保険法 及び 厚生年金保険法 に明文化されています。ただし、義務ではありません(詳細は後述)。

『翌月徴収』には、合理的な理由がある

健康保険法などで「翌月徴収を原則」と書かれている、あるいは社会保険労務士さんが「翌月徴収を勧める」のには、それなりの合理的な理由があります。 会社の「給与の締め日」や「支払い日」を想像してみると、よくわかります。

例えば、「20日締め25日払い」の会社で、3月21日に入社した社員(被保険者)がいた場合、3月25日に支給される給料はゼロ円になります(2月21日~3月20日までの勤務分に対する給与であるため)。

しかし、「当月徴収」を選択していた場合、3月分の給与の支給がないにもかかわらず、社会保険料の徴収が開始してしまいます。

翌月徴収であれば、3月21日に入社の社員でも、「4月分の給与から3月分の社会保険料を天引き」することが可能となりますので、「徴収の先払い現象」のような事態が起きないで済みます。

他にも、「15日締め25日払い」とか、「月末締め翌月5日払い」など、給与の締め日や支払日は、会社によってまちまちですので、もし当月徴収を原則としていたら、この「先払い現象」が至る所で起きてしまいます。

つまり、そもそも「被保険者の生活を守るための健康保険&厚生年金」なワケですから、徴収も被保険者の保護の視点から「翌月徴収を原則としている」ということなんだと思われます。

また、経理事務的な意味でも「翌月徴収を原則」としておいた方が、企業各社の締め日が何日であっても、混乱を来たさずに済みますね。入出金ミス等のトラブルを できるだけ減らしたいなら、原則に従って『翌月徴収』を選択した方が無難です。

『当月徴収』が禁止されているわけではない

ただし、『当月徴収・翌月納付』で処理しても、一応 問題はありません。法律で 翌月徴収 が明文化されているものの、法的拘束力があるわけではないですし、当月徴収が違法であるということもありません。実際、「当月徴収・翌月納付」の会社も結構多く、年金事務所も個々の会社の判断に委ねています(任せています)

このため、「3月給与分の社会保険料」なら、3月の給与から天引きし、4月末に納付するという形でも構いません。詳しくは、次ページの「当月徴収・翌月納付でもOK」で解説いたします。

『翌月徴収』のメリット&デメリット

翌月徴収の処理の流れをご説明する前に、『翌月徴収』のメリット&デメリットについて簡単にまとめてみました。次項にも『当月徴収』の長・短所を記載しましたので、比較してみると、貴社に合った処理がどちらなのかが見えてくると思います。

  1. 「翌月徴収」とした場合、初月分の給料からは 社会保険料を徴収しないので、初月の労働日数が少なくても(給与支給額が少なくても)従業員給料の手取り額が大幅に減らなくて済みます (※1)
  2. 従業員数が増えてきた場合には、事務処理が必然的に多くなりますが、翌月徴収であれば、給与改定や保険料額の変更などにより事務処理が増加しても、時間的に余裕があるため、処理を正確に行いやすい といえます。
  3. 社会保険料は「資格喪失日(退職日の翌日)が属する月の前月分まで納める」と規定されていること、また「日割りの概念がない」ことから、当月の社会保険料は、当月末日にならないと支払い義務が確定しません (※2) 。翌月徴収であれば、当月末日を既に通過しているため、支払い義務が確定していることになり、過大徴収などの問題が生じにくくなります。
(※1) 前項でも記載しましたが、社会保険料は、加入条件を満たした月から「満額徴収」となります(日割り計算とはならない)。月単位で計算します。「3月末近くに正規雇用」した場合も、「3月分を満額徴収」します。また、「翌月徴収」を選択した場合は、翌月の給与(4月)から「初月分(3月分)の社会保険料」を天引きします。

ただし、後述の (※2) にも記載のとおり、社会保険料の支払い義務が確定するのは、月末になりますので、3月31日まで勤務していないと、社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)の支払いは確定しません。

(※2) 社会保険料(厚生年金等)の規定では、「退職した日の翌日に厚生年金の被保険者資格を喪失する。保険料は、資格喪失日が属する月の前月分まで納める必要がある。」とされているため、月末の日が到来しないと、当月の保険料の支払い義務が確定しません。

例えば、3月分の社会保険料は、3月31日まで勤務した実績が無いと、納付する義務が確定しませんが、4月の給与から3月分の社会保険料を徴収(=翌月徴収)するのであれば、既に3月31日が到来しているため、「納付義務が確定したもの(前月分)を給与から天引きする」という単純な経理処理で済みます。

ただし、翌月徴収としていて月末に退職する場合(かつ決算日が月末であった場合)は、既に確定している前月分の保険料に加え、月末当日に当月分の保険料も確定する(翌月1日が資格喪失日=当月末の “当日” に保険料の納付義務が確定する)ため、退職間際の給料から「前月分と当月分の社会保険料」を差し引く必要があります。

ちなみに、当月徴収の場合(かつ決算日が月末であった場合)で、”例えば25日の給与支給” の後に 月末を待たずして 急遽退職となった場合、当月の社会保険料の支払い義務は発生しませんので、「当月の社会保険料を返金する処理」を “個別に” 行わなければいけません。これはこれで面倒ですね。

  1. 従業員からの徴収(従業員負担の社会保険料) と 会社の経費計上(法人負担の社会保険料)の月が1カ月ズレるため、経理面において やや混乱しやすい(うっかり・勘違いによる計算ミスが起きやすい)
  2. 1ヵ月遅れで徴収するため、(末日に退職した場合)退職時期の給与から「前月分と当月分の社会保険料」を徴収することになる (※3) 。
    ⇒ 月末に退職した従業員にとって、退職時の金銭負担が大きい (※3) 
  3. ⇒「翌月徴収」について従業員は知らない人が多いため、給与の支給金額が少ないことで揉めることも想定される。
(※3) 退職した日の「翌日」に厚生年金の被保険者資格を喪失し、保険料は、資格喪失日(退職日の翌日)が属する月の前月分まで納める必要があります。

「月の末日」に退職した場合は、「翌月1日」が資格喪失日となりますので、退職した月分(=資格喪失日が属する月の前月分)までの保険料を納める必要があります。

例えば、6月30日退職予定で、「20日締め25日払い」の会社なら、6月の給与(5/21~6/20勤務分)から5月の保険料を天引きして6月25日に給与を支給し、6月末までの10日間の給与(6/21~6/30勤務分)から6月の保険料を天引きして最後の給与を支給します。

また、「月末締め当月払い」の会社なら、6月分の給与(6/1~6/30勤務分)から5月分と6月分の保険料を天引きして6月30日に給与を支給します。月末に退職される方も多いため、気を付けておくといいですね。実際にどのように徴収するかは、会社の判断もあるかと思います。

最後の給与から差し引くのを忘れた場合は、後で会社口座に振り込んでもらう等、色々と面倒なことにもなりますので、ご注意ください。

ちなみに、極端な例ですが、月末の前日、例えば6月に退職予定の人が「6月29日」に退職した場合は、退職日の翌日である「6月30日」が資格喪失日ですので、「資格喪失日(=6月30日)が属する月の前月分までの徴収」というルールにのっとり、「5月分までの社会保険料の徴収」で済みます。

『当月徴収』のメリット&デメリット

『当月徴収』のメリット&デメリットについて以下に記載しました。前項の『翌月徴収』の長・短所との違いを確認してみましょう。ご参考になれば幸いです。

  1. 「給与支給」、「従業員負担の社会保険料徴収」、「法人負担の社会保険料計上」の「が全て一致しているため、すっきりしていて大変わかりやすい。
  2. 翌月徴収と異なり、退職月(月末退職の場合)は、その月の1か月分の社会保険料の徴収で済むので、退職月の給与支給額のことで余分なトラブルが起きずに済む(月中に退職の場合は、当月の徴収は無し。詳細は前述の (※2) 参照)

  1. 翌月徴収と同様に、社会保険料は「月の途中」で入社しても、満額徴収となります(日割り計算とはならない)。したがって、
    ⇒ 初月から社会保険料を徴収することになるため、給与の少ない 初月分の給料は、手取り額が(保険料額分だけ)減ったり、入社日によっては入社月の給料が支給されないのに 社会保険料の徴収をしなければならなくなるなど、新入社員の勤労意欲にも影響が出る可能性があります。
  2. 給与の額や勤務日数が確定する前に月額変更届の準備をしなくてはいけないなど、「翌月徴収」と比べて 当月の事務処理が確実に増えますので、ミスを誘発しやすくなります(「翌月徴収のメリット」の反対)
    特に、(月末でなく)月の途中で退職した場合には、取り消しや変更など、イレギュラーな経理処理が増えるため、ミスが起きないよう、注意が必要です。

『翌月徴収・翌月納付』の仕訳

『翌月徴収・翌月納付』の処理・仕訳の流れについて、「3月給与に対応する(従業員負担分の)社会保険料」の事例を使って確認してみることにします(4月の給与から天引きするケース)。

4月給与(20日締め・当月25日払い)につき、(従業員負担分の)社会保険料を「翌月徴収・翌月納付」で処理する場合、4月25日の仕訳は次のようになります(役員の場合も給料の勘定科目名が「役員報酬」になるだけで、仕訳処理は同じです。

なお、下記仕訳では 「(20日締めにより発生する)21日から30日までの未払給与分の仕訳」 の記載を省略しています。あらかじめご了承ください。


4月25日の給料(給与)からは、「3月給与に基づき算定された(従業員負担分の)社会保険料」を天引きします。なお、天引きする社会保険料は、「預り金」勘定で貸方に書きます(負債に計上します)。従業員から預かったお金ですので、「預り金」勘定を用います。

なお、他の預り金、すなわち源泉所得税の「預り金」、市県民税の「預り金」とは、一括して書かないで、各々別個に記載してください。なぜなら、同じ「預り金」勘定を使用していても中身が違いますし、また 後日お金を支払った際の仕訳処理の時に、金額(や摘要欄)を見れば一目で判別がつくからです。

 (借 方)  (貸 方)
給 料 (4月給料) 300,000 普通預金 or 現金 262,000
預り金  ※② 3,000
預り金  ※② 5,000
預り金  ※① 30,000
※① 3月(前月)の給料に対する 従業員負担分 の社会保険料を徴収します。
※② 「源泉所得税」、「市県民税」、「労働保険料(当該仕訳に非掲載)」「通勤手当(当該仕訳に非掲載)」などの説明は割愛します。


4月末には、「会社負担分の 4月 の社会保険料」を「法定福利費」の勘定科目を用いて借方に費用計上し、一方で負債が増加するので、貸方に未払費用(費用計上したものの未だ払っていないお金)を書きます。

会社負担分の社会保険料は、「収益や費用の事実が発生した時点で計上するという原則(これを 発生主義 といいます)」に基づき、4月分は 同じ4月 に計上します
(注: 「翌月末の社会保険料納付時に法定福利費を計上」する会計処理を選択されている場合は、この仕訳は不要です)

 (借 方)  (貸 方)
法定福利費 ※③ 30,500 未払費用 30,500
※③ 4月(当月)の給料に対する 会社負担分 の社会保険料を費用計上します。
なお、従業員負担分との差額 +500円 は、子ども・子育て拠出金です。

(休日の場合は、翌営業日 / 銀行引き落とし日)
また、同日付の上記仕訳とは別個に、3月給与に対する従業員負担分&会社負担分の社会保険料とを合算して納付しますので、その仕訳を記帳します。

すなわち、4月25日に従業員から徴収した「3月給与に対する従業員負担分の社会保険料 30,000円」(「預り金」勘定で負債に計上していたもの)と、 (前出の仕訳には出てきていませんが)3月31日に費用計上した会社負担分の社会保険料 30,500円」(「未払費用」勘定で負債に計上していたもの)とを合算して、年金事務所に納付します。

(注: 「翌月末の社会保険料納付時に法定福利費を計上」する会計処理を選択されている場合は、未払費用の箇所が「法定福利費」になります。)

 (借 方)  (貸 方)
預り金 ※④ 30,000 普通預金 60,500
未払費用 ※⑤ 30,500
※④ 3月 の給料に対する 従業員負担分 の社会保険料(4月25日の天引き分)を納付します。
※⑤ 3月 の給料に対する 会社負担分 の社会保険料(3月31日の費用計上分)を納付します。

仕訳は、前出した「4月25日の預り金 30,000円」と、「3月31日の未払費用 30,500円」の2つの貸方勘定を反対側の借方(負債の減少)に書いて “過去の仕訳” を消去し、代わりに「普通預金60,500円」を貸方に書いて普通預金の金額を減らします(資産の減少)

【5月25日の仕訳は、4月25日と同じ処理のため、記載省略します】

(休日の場合は、翌営業日 / 銀行引き落とし日)

なお、補足ですが、「仕訳(2)」で出てきた4月30日に費用計上した「会社負担分 の社会保険料」(「未払費用」として、負債に残っているもの)は、5月25日に給与から天引きした「4月の給料に対する 従業員負担分 の社会保険料」(「預り金」として負債に残っているもの)と合算して5月末に納付します。
(注: 「翌月末の社会保険料納付時に法定福利費を計上」する会計処理を選択されている場合は、未払費用の箇所が「法定福利費」になります。)

 (借 方)  (貸 方)
預り金 ※⑥ 30,000 普通預金 60,500
未払費用 ※⑦ 30,500
※⑥ 4月 の給料に対する 従業員負担分 の社会保険料(5月25日の天引き分)を納付します。
※⑦ 4月 の給料に対する 会社負担分 の社会保険料(4月30日の費用計上分)を納付します。

「20日締め」の会社で月末に退職する場合

給与の計算は、20日締めにしている企業も多いので(例:20日締め 25日払い、20日締め 30日払い など)、「月末に退職」した場合、実際にどのような徴収になるのかを、参考までに記載しました。

ただし、以下の処理は、あくまでも一例ですので、これらの方法以外でも「合理的な処理」「適切な処理」はあります。参考程度にご覧ください。

翌月徴収の場合

「翌月徴収」で、給与の締め日・支払い日を「20日締め(25日払い)」としている会社において、例えば8月31日で従業員が退職した場合(⇒資格喪失日:9月1日)は、8月25日に支払う給与、すなわち「7月21日~8月20日まで勤務した分の給与」から「7月分の社会保険料」を徴収します。

そして、社会保険料は「資格喪失日の属する月の “前月分” までの保険料を納める」ことになっているので(⇒8月分まで納めることになっているので)、「8月21日~31日まで勤務した分の給与(9月分の給与)」から「8月分の社会保険料」を差し引きます。

当月徴収の場合

「当月徴収」で、給与の締め日・支払い日を「20日締め(25日払い)」としている会社において、例えば8月31日(月末)で従業員が退職した場合は、8月25日に支払う給与、すなわち「7月21日~8月20日までの給与」から「8月分の社会保険料」を徴収します。

8月分の社会保険料は、既に徴収済みなので、「8月21日~31日までの残額給与(9月分)」からは差し引きません。既述のとおり、社会保険料は「資格喪失日の属する月の “前月分” までの保険料を納める」ことになっているので、「8月21日~31日まで勤務した分の給与(9月分の給与)」は、対象外となります。