前ページでは、「損益分岐点分析とは何か?収支改善ツールとして活用する方法」というテーマで “損益分岐点” を多角的に解説&ご紹介しました(特集記事)。
本ページでは、損益分岐点売上高 の数値を元に算出する「安全余裕率」の計算方法や、安全余裕率を収支分析・経営改善に役立てる方法をご紹介します。利益を増やす手段として、大いに活用したいですね!
安全余裕率は 赤字への抵抗力を見る指標
安全余裕率とは、売上高(や販売量)が損益分岐点からどのくらい離れているのか、どのくらい安全なのか をパーセンテージで表した指標 のことをいいます。
「安全余裕率」を計算
損益分岐点売上高の数値を使って求める場合は、損益損益分岐点売上高と現在の売上高を使って計算できます。計算式は、以下のとおりです。
- 安全余裕率
=(実際の売上高-損益分岐点売上高)÷実際の売上高×100 (%)
=(1-損益分岐点比率)×100 (%) - =(1-損益分岐点売上高÷実際の売上高)×100 (%)
この指標を使えば、実際の売上高が損益分岐点売上高(利益がプラマイゼロとなる水準の売上高)を “どの程度上回っているのか” を数値化することができます。つまり、「赤字への抵抗力」はどれくらいあるのかを一目で判別することができます。
安全余裕率の値が 高ければ高いほど、収益力が高い状態(売上減少に強い会社)であることを示しています。プラス(0%以上)なら黒字、0%になったら利益ゼロ、マイナスに転じたら赤字となります。
また、安全余裕率が高ければ、「将来的に多少売上が落ちても黒字を維持できる」「赤字になりにくい」「競争力が高い」「経営に余裕がある」といった経営状態(収益体質)であるといえます。
「安全余裕率」を月別に比較してみる
例えば、月の売上ごとに安全余裕率を並べて比較すれば、単純に売上や利益の増減を目で見て比較するよりも、よりはっきりと安全の度合い(リスクの度合い)を見比べることができます。
勘定科目 | 4月 | 5月 | 6月 |
売上実績 | 1,100 | 1,260 | 990 |
損益分岐点売上高 固定費÷限界利益率 | 1,000 | 1,000 | 1,000 |
安全余裕率 (売上実績-損益分岐点売上高)÷売上実績 | 9.1% | 20.6% | -1.0% |
参考:変動費 | 計 600 | 計 900 | 計 480 |
参考:変動費率 | 60% | 60% | 60% |
参考:固定費 | 計 300 | 計 300 | 計 300 |
参考:損益分岐点比率 損益分岐点売上高÷売上実績 | 90.9% | 79.4% | 101.0% |
参考:安全余裕率+損益分岐点比率 | 100% | 100% | 100% |
安全余裕率は 経営改善の指標としても役立つ
「安全余裕率」の推移をみて “悪化原因” に速攻アプローチ!
安全余裕率は、固定費、変動費、そしてそれらを元に弾き出した損益分岐点の数値を使って算出しています。もし 安全余裕率が下がったなら、固定費・変動費の項目を個別にチェックしていけば、原因をあぶり出すことができますし、解決の突破口を開くきっかけにもなります。
つまり、「個別の固定費・変動費のうち、どの費用が足を引っ張っているのか?」「材料費が高くなったのか?」「外注の割合が増えたのか?」「抜本的に賃料等の固定費を減らせないか?」「商談と称したムダな交際費が増えていないか」といった客観的な視点から、問題点や改善点を探せます。
「安全余裕率」がマイナスなら即改善
また、安全余裕率がマイナスになった場合、すなわち「実際の売上高が損益分岐点売上高を下回った場合(赤字になった場合)」も、その計算根拠となっている「変動費や固定費を個別に分析」することにより、改善可能な点を見つけやすくなります。
マイナスの時こそ、この分析手法が役立ちますので、もし可能なら「月別の安全余裕率」を経営指標として出せる(月別の推移表を作成する)ようにしておくといいですね。
「売上高の推移」では 原因まで目が行き届かない
“売上高の推移” だけを見ていると、売上増減で一喜一憂してしまい、「原因分析」まで目が行き届きにくかったり、「売上回復することが最優先課題」のような気持ちになってしまいがちです。
しかし、”安全余裕率の推移”(月別、年別などの推移表)であれば、「異常値が出た月」と「そうでない月」の各固定費・変動費とを見比べて分析することにより、的確に原因を発見できます。
安全余裕率から阻害要因にアプローチすれば、当面の売上回復が期待できなくても、利益を増やす(赤字を解消する)解決策を見つけ出すことができます。是非活用されることをオススメします。
「安全余裕率」の目安
安全余裕率の平均的な目安は下表のようになっています。20%以上であれば、売上環境に多少の変化が起きても黒字を維持できるといえます。ただし、これはあくまでも大まかな目安だと思ってください。
前述しましたように、製造業・卸売業・小売業など、仕入れ(や外注)を伴う業種は変動費率が高くなりますので、損益分岐点売上高も高くなりがちです。従って、安全余裕率の数値は低く出る傾向にあります。
このため、単純に「20%じゃなきゃダメだ」と考えるよりも、出来れば同業種の安全余裕率と比較したり、自社の特質を考慮した上で安全度を決めた方が、正確で客観的な分析が行えると思います。
【 安全余裕率の平均的な目安 】
20%以上 | 安全(売上の変化に強い) |
19~10% | 比較的安全(多少の売上減少はOK) |
9~0% | やや危険(赤字手前) |
マイナス | 危険(赤字) |
「安全余裕率」と「損益分岐点比率」は表裏一体
分母は同じだが 分子が異なる
損益分岐点比率は、「売上減少にどれだけ耐えられるか」を表す指標で、低ければ低いほど収益力が高い状態(売上減少に強い会社)であることを示しています。100%未満は黒字、100%になったら利益ゼロ、100%を超えたら赤字の状態であることを示しています。
安全余裕率と似た指標で、計算式の分母は同じなのですが、分子が「損益分岐点売上高」になっています。計算式は以下のとおりです。
- 損益分岐点比率
=損益分岐点売上高÷実際の売上高×100 (%)
[ 参考比較 ]
- 安全余裕率
=(実際の売上高-損益分岐点売上高)÷実際の売上高×100 (%)
つまり、損益分岐点比率は、分子の部分が 単純に「損益分岐点売上高」となっているのに対し、安全余裕率は「実際の売上高と損益分岐点売上高の差」になっています。
安全余裕率+損益分岐点比率=100%
ちなみに、安全余裕率と損益分岐点比率を合計すると、100%になります。つまり、相互に補い合う関係になっています。
例えば、前出の5月の安全余裕率と損益分岐点比率を合計すると、安全余裕率20.6% + 損益分岐点比率79.4% = 100%となります。
つまり、「安全余裕率は『安全度合い』を示す指標」「損益分岐点比率は『売上減少への強さ』を示す指標」といわれ、一見異なったもののように見えますが、両者とも「同じモノ」を別の角度から映し出しているに過ぎません。
安全余裕率 の代わりに 損益分岐点比率 を活用してもOK
黒字の会社が “現在の余裕度合い” という角度から確認したい場合は、「安全余裕率」を使うと黒字維持・拡大への意識が高まると思われます。
また、黒字や赤字を行ったり来たりしている会社なら、”赤字への抵抗力や黒字転換への到達度合い” を確認するという意味で「損益分岐点比率」を活用すると、筋肉質な経営体質へと変わる足掛かりになるかと思われます。
赤字の会社が安全余裕率を経営指標として使うと、いつも「マイナス表示」ばかりになってしまい、気が滅入ってきそうですね。どちらも表裏一体の指標ですので、どうせ使うなら「ヤル気が湧き出てくる方の指標!」を使いたいですね。