『当月徴収・翌月納付』でもOK
前ページ の「翌月徴収・翌月納付」で、従業員から預かる社会保険料は『翌月徴収・翌月納付』とご説明しましたが、当月の給与から天引きして、翌月に納付する『当月徴収・翌月納付』でも、とりあえず問題ありません。
前ページをお読みになって、「3月給与分の社会保険料は、3月給与から天引きした方が、期間が一致してすっきりするのに・・・」とお考えになった方もいらっしゃるでしょうし、「えーっ、ウチは当月徴収・翌月納付にしてたよ!どうしよう・・・。」と困惑された方もおられるかと思いますが、それでも構いません。
確かに、法令では「翌月徴収・翌月納付」と書かれています。また、そのように処理している会社も多いですし、社会保険労務士に処理をお願いしている会社なら、おそらく『翌月・翌月』とされている会社が多いかと思われます。ただし、これは、あくまでも「原則」であって、実際には各会社の自主性に任されているようです。
また、社会保険料(厚生年金等)の規定で「退職した日の翌日に厚生年金の被保険者資格を喪失する。保険料は、資格喪失日が属する月の前月分まで納める必要がある。」とされています。このため、「当月徴収」を選択している場合には月中の退職などの場合に「返金処理」などの手続きが出てくるなど、やや面倒ではあります。ただし、これについても「個別事情に合わせて適切な処理」を行えば、それで問題ありません。
私も色々疑問に感じたため、年金事務所に問い合わせてみたところ、 「法律にはそのように書かれていますが、会社が内部的にきちんと管理していれば、特に問題にする事柄ではありません。会社の自主性に任せています。」 とおっしゃっていました。
また、 「実際に会社に赴いて調査・審査もおこなっていますが、他の悪質なケースと絡めて問題となっているのでもない限り、『当月徴収』ということ自体が問題に挙げられることはありません。」 ともおっしゃっていました。
つまり、当月に徴収しても、翌月に徴収しても、最終的に翌月にきちんと納付されていれば、どちらでも構わないということです。
じゃあ、税務署の立場から見た場合、どうなのか?と思い、税務署の「電話相談センター」に 「社会保険料を当月徴収するか、翌月徴収するかで、個人の所得税が若干ズレる場合がありますが、問題ありませんでしょうか?」 と問い合わせたところ、「 あぁ、どちらでも構わないですよ」 「それ(当月徴収)でもOKですよ」 と、なんともあっさりした返答が返ってきました。
それだったら・・・と思い、ダメ押しのつもりで、『従業員の権利保護』という観点から、労働局(労働基準監督署)に問い合わせてみました。
「翌月徴収と法律に書かれているんですが、1か月早めて当月徴収にしたら、従業員の権利上、何か問題があるということになりますか」・・・と。
回答は、「権利侵害にはならないですよ。従業員から社会保険料を預かったにもかかわらず、会社がそれを納付しなかったというなら大問題ですが、当月の社会保険料をその月の給料から天引きしたことが問題になることはないですし、今までそのようなことで問題となった話はないですね。」 とおっしゃっていました。
インターネット(Q&Aサイトなど)でこの件を調べると、条文をひっぱり出してきて「当月徴収は違法だ」と断定的に書かれている方がいらっしゃいますが、そんなことはありません。
実務上は、「翌月徴収でも当月徴収でも、どちらでも構わない」ということです。この「当月徴収」のケースに限って言えば、「法令に書かれていない⇒違法ということではない」というのが、最終結論です。
ただし、今回のお話は、『当月徴収・翌月納付』を積極的に選択してくださいとお伝えしているのではなく、「これから会社を設立しようという方に向けて、「迷い」を払拭するべく解説したもの」であり、また「既に会社を設立して『当月・翌月』で処理を行っていて、現在当惑している経理ご担当者に向けて補足説明をしているもの」です。
このため、新しく会社を設立して社会保険料を納める場合は、原則に立ち戻って『翌月徴収・翌月納付』を選択しても構いませんし、あるいは当月の従業員の給料から(当月の)社会保険料を天引きしたい場合は、『当月徴収・翌月納付』を選択されても構わないと思います。どちらの徴収方法でも問題はありません(事務処理のミスを減らしたいなら、期間的に余裕のある『翌月徴収・翌月納付』を選択されることをおすすめします)。
もう少し深く(正確に)ご検討されたい方は、お近くの年金事務所や社会保険労務士とご相談なさってください。また、経理上も正しいかどうかがご心配な方は、税務署・税理士などとも併せて相談してみるといいですね。
『当月徴収・翌月納付』の仕訳
ちなみに、『当月徴収・翌月納付』の仕訳の流れは、以下のようになります。ご参考になさってみてください(なお、下記仕訳では 「未払給与分の仕訳」 の記載を省略しています。あらかじめご了承ください)。
(借 方) | (貸 方) | ||
給 料 (4月給料) | 300,000 | 普通預金 or 現金 | 262,000 |
預り金 ※② | 3,000 | ||
預り金 ※② | 5,000 | ||
預り金 ※① | 30,000 |
※① | 4月 (当月)の給料に対する 従業員負担分 の社会保険料を徴収します。 |
※② | 「源泉所得税」、「市県民税」、「労働保険料(当該仕訳に非掲載)」「通勤手当(当該仕訳に非掲載)」などの説明は割愛します。 |
(注: 「翌月末の社会保険料納付時に法定福利費を計上」する会計処理を選択されている場合は、この仕訳は不要です。)
(借 方) | (貸 方) | ||
法定福利費 ※③ | 30,500 | 未払費用 | 30,500 |
※③ | 4月(当月)の給料に対する 会社負担分 の社会保険料を費用計上します。 なお、従業員負担分との差額 +500円 は、子ども・子育て拠出金です。 |
(休日の場合は、翌営業日 / 銀行引き落とし日)
(注: 「翌月末の社会保険料納付時に法定福利費を計上」する会計処理を選択されている場合は、未払費用の箇所が「法定福利費」になります。)
(借 方) | (貸 方) | ||
預り金 ※④ | 30,000 | 普通預金 | 60,500 |
未払費用 ※⑤ | 30,500 |
※④ | 3月 の給料に対する 従業員負担分 の社会保険料(3月25日の天引き分)を納付します。 |
※⑤ | 3月 の給料に対する 会社負担分 の社会保険料(3月31日の費用計上分)を納付します。 |
【5月25日の仕訳は、4月25日と同じ処理のため、記載省略します】
(休日の場合は、翌営業日 / 銀行引き落とし日)
(注: 「翌月末の社会保険料納付時に法定福利費を計上」する会計処理を選択されている場合は、未払費用の箇所が「法定福利費」になります。)
(借 方) | (貸 方) | ||
預り金 ※⑥ | 30,000 | 普通預金 | 60,500 |
未払費用 ※⑦ | 30,500 |
※⑥ | 4月 の給料に対する 従業員負担分 の社会保険料(4月25日の天引き分)を納付します。 |
※⑦ | 4月 の給料に対する 会社負担分 の社会保険料(4月30日の費用計上分)を納付します。 |
[ 参考リンク ]
- 日本年金機構「月の途中で入社/退職したときは、厚生年金保険の保険料はどうなりますか」
- 国税庁「社会保険料の損金算入時期について」