役員報酬の種類 (2) – 事前確定届出給与

会計・経理処理

役員報酬の支払い方法には、定期同額給与のほかに「事前確定給与」というものがあります。本ページでは、この事前確定給与の 定義や 実際の使い方 等について解説いたします。

事前確定届出給与とは?

役員報酬(役員給与)は、原則として「定期同額給与」で支払うこととなっており、期中での増額等は基本的に認められていません。

とはいえ、役員にも「従業員のような夏&冬のボーナスを出して、やる気を高めてあげたい」とお考えになる経営者もいらっしゃるかと思います。

そのような場合には、この「事前確定届出給与」という例外規定を利用することになります。一見、「ボーナス」に似たようなスタイルを採ることができる給与支払い方式です(表面的な形が似ているだけですが・・・)。

事前確定届出給与とは、税務署にあらかじめ、いついつの時期にいくらの金額を役員給与として支払うという届出書を提出し、実際にその時期に同額の役員給与を支払った場合にのみ、会社の経費として認められる、という制度です。

事前確定届出給与の支給方法・手順

具体的な手順&内容は、以下のとおりです。

  1. 株主総会を開催して「事前確定届出給与」を支給する旨の提案・決議
  2. 議事録には
    支給対象となる役員(例:鈴木太郎)
    支給時期(〇月×日)
    支給金額(〇〇〇円) を記載
  3. 税務署に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出
  4. 届出書の提出期限は
    ①賞与支給を決議した株主総会の日から1ヵ月以内
    決算日から4ヵ月以内 のどちらか早い方

株主総会の議事録には、

  1. 定期同額給与である「月額の報酬金額」と 事前確定届出給与の部分である「〇月×日の報酬金額」の両方を列記する方法 や、
  2. 「議長は下記の事前確定届出給与を支給したい旨を提案し、その承認を受けた。」と別個の議案として記載する方法

などがあります。いずれにしても、「名前、支給月日、支給金額」を明確に記載します。

前述 “4.” の「税務署への提出期限」は、『株主総会の日』を半年後、9か月後 … など、支給時期を遅らせて利益調整の材料として悪用されないようにするため、「決算日から4か月以内」の制限を加えているそうです。

ここで、気を付けなければいけないのは、「指定時期に、届け出と全く同額の役員給与」を支払うことが必須の条件となっていることです。金額や日付が異なっていれば、その全額が経費として認められなくなります(否認されます)。うーん、結構リスクがありますね。

会社は、経営環境の変化が頻繁に起こるため、期中で業績が悪化して 「事前確定届出給与のような まとまった金額」 を一度に支払えなくなることだってあります。

役員たちの士気を高める目的(賞与スタイルの役員報酬を支払う目的)で この「事前確定届出給与」の制度を安易に利用するのは、ちょっと難しいかもしれませんね。

このため、業績悪化も想定し、資金繰りに問題なさそうなことを確認した上で、決議&支給するようにしたいですね。

もしくは、その役員賞与に相当する額を定期同額給与に組み込んでしまう方が、資金繰り的にも 税務面においても リスクは軽減されますね。

支払わなかった場合、どうなる?


税務署に届け出を出したにもかかわらず、実際に「事前確定届出給与」を支払わなかった場合はどうなるのでしょうか。

例えば、「業績が悪化したので、『金額を減らす』のではなく、『全額支払わなければいい』んじゃない?」と考える方もいらっしゃるかと思います。確かに、支払額をゼロにすれば、法人税の課税対象そのものが消えてなくなるわけですから、「法人税を支払うリスク」は無くなります。


しかし、役員各人に対しては、「事前確定届出給与を支払う」という約束になっているため、役員たちから「支払ってくれ」と請求されれば拒否できません(役員の報酬請求権)

つまり、支払い義務が生じてしまうのです。役員の報酬請求権を消滅させるためには、役員の同意が必要になります。


それだけではありません。事前確定給与は、「支給日の到来前に 役員が辞退の意思を表示しない場合は、その支給の有無に関わらず、原則(役員個人の事前確定届出給与の金額に対して)源泉所得税を課税する」という税務上のルールがあります。

このため、役員が期限前に辞退の意思を表示しないと、(実際に支払っていなくても)その年の役員個人の給与が支払われたものとみなされ、役員個人の所得税の課税対象となりうる可能性が高いです。・・・オソロシイですね。

この制度は、使いづらい? 使い道は?

給与(事前確定届出給与)をもらっていないのに、その額に対する所得税等が課税されたら、そりゃその役員たちは怒るに決まっています。会社への訴訟だってあり得る話になってきてしまいます。

こういうことをトータルで考えると、「事前届出確定給与」というのは、とても使いづらい&それなりの厄介なリスクを持っている制度と言えなくもありません。

特に、スタートアップ時(起業間もない状態の)の会社にとっては、面倒臭いだけの制度ですので、”検討すること自体がムダ” ともいえます(あくまでも 個人的な意見です)

とはいえ、① 会社が軌道に乗ってきて、② 経営資金も潤沢になってきて、③ 事前の予定通りに支払う能力がある会社 なら、「役員のヤル気アップ!」に役立てるべく、積極的に活用してみるのもいいですね。

… 税務署も、抜け道(会社の利益操作のための抜け道)が出来ないよう、イロイロ考えて制度を作っていますね。大したもんです。もちろん、「わが国の税収確保」という観点から考えれば、これらの “抜け穴の無い” 制度は、至極当然な制度とも言えます。一部の会社だけが利益操作をしてズルするのは、良くないですもんね。一定のルールの下で、健全に儲けましょう!