法人化による税金面のメリット
「個人事業を続けて相応の利益が出たら、法人化(法人成り)すると得をする」と言われています。本ページでは、税金面のメリット(節税効果)について掘り下げてみることにします。節税効果は、以下のとおりです。
【 法人成りによる税金面のメリット 】
① | 法人化すれば、役員報酬は全額損金に算入可能 (会社経費に計上可) |
② | 法人化による役員報酬なら、「給与所得控除」でトクする |
③ | 個人事業税(都道府県民税)の負担がゼロになる |
④ | 法人化すれば、経営者に退職金を支払え、しかも一定額まで非課税 |
⑤ | 繰越欠損金の繰越期間は 9年 (個人事業の繰越期間は3年) |
⑥ | 決算期を変更できる (税金の計算期間を変更できる) |
⑦ | 法人から地代家賃を受け取れる |
一般的なケースですが、配偶者がいない(配偶者控除がない)場合なら、年間で400万円以上の利益(売上-経費=利益)が出ていれば、税金面において法人化するメリットが出てくると言われています。次項以降で個別に確認してみましょう。
①:役員報酬を全額損金に算入可能
法人になれば、役員の給与は、会社側から見れば経費です。もちろん、その全額が税務上においても損金(経費)として認められています。
以前は、「1,600万円以上の役員報酬は税務上経費と認められない」こともありましたが、平成22年に法改正されて(参考記事)、上限額が撤廃されました。このため、「常識を逸脱しない金額の範囲内」であれば、その全額を経費として計上することができます。
②:「給与所得控除」でトクする
法人化することにより、個人事業の「売上から経費を差し引いた後の所得」が (会社役員としての)「給与所得」に変わります。これに伴い、「給与所得控除」を受けられるようになり、(給与所得金額から)一定額を控除できます。
この「給与所得控除」の有無により、税金の差額が出てきます。それでは、個人事業の所得(売上-経費=利益)が400万円である場合と、法人化して役員報酬400万円(年間)を受け取った場合とで比較してみましょう。
なお、公平に比較するため、法人住民税の均等割 7万円 (法人が赤字になっても課税される税金)を 法人の役員報酬 に加算して比較しています。また、以下の計算例では「会社の利益を全て役員報酬として支給し、利益がゼロ円(又は赤字)」とした場合のケースを想定しています。
【 ケース1: 個人の所得と役員報酬 が各々400万円の場合の比較 】
個人事業主の場合 | |
個人事業主の所得税 | 15万円 |
個人事業主の住民税 | 31万円 |
個人事業税 | 1万円 |
税金合計 | 47万円 |
法人成り・役員報酬の場合 | |
役員報酬の所得税 | 9万円 |
役員報酬の住民税 | 18万円 |
法人住民税・均等割 | 7万円 |
税金合計 | 34万円 |
節税額 | -13万円 |
計算を簡略化するため、個人事業主の利益及び役員報酬の「各種控除」は一律90万円として計算しています。 |
上表の所得税についてチェックしてみましょう。会社から支給される年間給与(役員報酬)が 400万円 (天引き前の金額)であった場合(上表右)、給与所得控除は 134万円 になり、給与所得控除後の金額は 266万円 (400万-136万=266万円)になります。所得税は、この266万円から各種控除(基礎控除、社会保険料控除、生命保険料など)を差し引いて課税計算されます。
- 額面 400万円 - 給与所得控除 134万 - 各種控除90万 = 課税所得金額 176万円
課税所得金額 1,760,000円 × 税率5% = 役員報酬の所得税 88,000円
(→ 約 9万円)
しかし、個人事業主の場合、年間収入から必要経費を除いた所得(実質の額面給与)が400万円であったとすると、青色申告特別控除65万円を差し引き (400万-65万=335万円)、そこから各種控除を差し引いて課税計算されます(税率及び控除額は、役員報酬の場合と同じ「所得税速算表」を用いています)。
- 事業所得 400万 - 青色申告特別控除65万 - 各種控除90万 = 課税所得金額 245万円
課税所得金額 2,450,000円×10%-97,500円= 個人事業主の所得税 147,500円
(→ 約 15万円)
その他、住民税などの税金も加算しますと、法人化後の役員報酬の方が 約 13万円 も税金が少なくなります。
【 ケース2: 個人の所得と役員報酬 が各々500万円の場合の比較 】
個人事業主の場合 | |
個人事業主の所得税 | 26万円 |
個人事業主の住民税 | 41万円 |
個人事業税 | 6万円 |
税金合計 | 73万円 |
法人成り・役員報酬の場合 | |
役員報酬の所得税 | 16万円 |
役員報酬の住民税 | 26万円 |
法人住民税・均等割 | 7万円 |
税金合計 | 49万円 |
節税額 | -24万円 |
計算を簡略化するため、個人事業主の利益及び役員報酬の「各種控除」は一律90万円として計算しています。 |
個人の所得 と 役員報酬 の金額を 500万円 にして比較計算すると、法人化後の役員報酬の方が 約 24万円 も税金が少なくなります。
【 ケース3: 個人の所得と役員報酬 が各々800万円の場合の比較 】
個人事業主の場合 | |
個人事業主の所得税 | 100万円 |
個人事業主の住民税 | 71万円 |
個人事業税 | 21万円 |
税金合計 | 192万円 |
法人成り・役員報酬の場合 | |
役員報酬の所得税 | 54万円 |
役員報酬の住民税 | 60万円 |
法人住民税・均等割 | 7万円 |
税金合計 | 121万円 |
節税額 | -71万円 |
計算を簡略化するため、個人事業主の利益及び役員報酬の「各種控除」は一律90万円として計算しています。 |
更に、個人の所得 と 役員報酬 の金額を 800万円にして比較計算すると、法人化後の役員報酬の方が 約 71万円 も税金が少なくなります。所得が増えれば増えるほど、税額の差が大きくなることをお分かりいただけたことと思います。
ただし、法人の役員報酬(役員給与)は個人事業の収入と異なり、「1事業年度内は 同額の役員給与(月給)を支払い続けること」(定期同額給与)が法律で定められているため、いくら年度の半ばで儲けが増えたからといって、途中で給与(月給)を増額することは出来ません(期中の役員給与の操作は不可)。その点も考慮したうえで、メリットがあるかどうかをご判断ください。
なお、上記の計算例は、あくまでも目安として計算したものです。予めご了承ください。各種控除金額などが異なると、計算結果も大きく変わってきます。