③:個人事業税の負担がゼロに!
個人事業主の場合、都道府県から個人事業税が課せられます。個人事業税の税額は、「青色申告特別控除」を控除する前の課税所得金額(売上-利益-各種控除=青色申告特別控除を控除する前の課税所得金額)から、事業主控除290万円を差し引いたものに、税率5%(一部の業種を除く)を掛けた金額です(事業主控除の290万円を下回る場合、個人事業税はゼロ円です)。
前出の「メリット② – ケ-ス1」の例のように、個人事業主の所得(売上-経費=利益)が 400万円 の場合、そこから各種控除を仮に90万円として差し引くと、310万円になります。事業主控除の金額290万円を上回っているため課税され、個人事業税は1万円になります。
- (個人事業の利益 400万-各種控除 90万-事業主控除 290万)× 税率5% = 1万円
また、前出の「メリット② – ケ-ス2」のように 所得が500万円であれば、個人事業税は6万円、「メリット② – ケ-ス3」のように 所得が800万円であれば、個人事業税は21万円になります。法人の役員報酬であれば、そもそも「個人事業税」自体がありません。
法人の利益等に課せられる「法人事業税」はありますが、法人の利益がゼロ、あるいは赤字になれば、法人事業税は課税されません。
④:役員退職金&一定額まで非課税
法人化すれば、経営者に退職金を支払うことができ、しかも一定額まで非課税となります。この控除される金額を「退職所得控除額」といいます。個人事業に退職金制度はありませんので、オトクですね。
勤続年数 20年以下 なら、「40万円×勤続年数」が 退職所得控除額 になります。20年超なら、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」が 退職所得控除額 になります。この金額までは、税金がかかりません。
例えば、勤続年数30年の人が退職する場合の 「退職所得控除額」 は、
- 800万円 + 70万円 ×(30年-20年)= 1500万円
となります。1500万円を超えて、やっと課税されます。また、法人の場合は、長年の利益が預金に残っていても、この「退職金」を社長自らに支給することによって、過去の儲け(利益の蓄積)を回収することができます。資産管理という点では、個人事業主よりも自由度は高いですね。
ちなみに、個人事業主の事業所得が 2,000万円 あった場合の所得税は 520万円 ですが(退職金制度がないため、そのまま課税されます)、30年勤務した役員・従業員に 同額の 2,000万円 を退職所得として支給する場合の所得税(退職所得の源泉徴収税額)なら、たった 59万円 で済みます。えらい違いですね。
[ 参考リンク ]
- 国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁「退職手当等に対する源泉徴収」
- 国税庁「退職所得の源泉徴収税額の速算表」
⑤:繰越欠損金は 10年繰越可
個人事業の場合、繰越欠損金の繰越期間が 3年 ですが、法人の繰越期間は 10年 となっています。以前は、法人の繰越期間が7年でしたが、平成24年から 9年 に延長され、更に平成30年4月以後に開始する事業年度以降の欠損金額の繰越期間は10年となりました。
- 平成13年4月1日より前に開始した各事業年度に発生 ・・・ 5年
- 平成13年4月1日~平成20年4月1日より前に終了した事業年度に発生 ・・・ 7年
- 平成20年4月1日~平成30年4月1日より前に終了した事業年度に発生 ・・・ 9年
- 平成30年4月1日以後に開始した事業年度に発生 ・・・ 10年
繰越欠損金制度とは、「赤字(欠損金)が出たら、翌期以降の黒字(課税所得)と相殺できる税務上の制度」のことをいいます。繰越期間内(10年以内)に黒字(課税所得)が生じた場合、課税所得を相殺・減額できるので、大変お得です。
世の中の景気の流れが変わるには 一般的に5~10年程度の期間を要すること、また、自社の力で赤字体質を黒字体質に転換するにしても、2~3年では実現困難な場合もあることなどを考慮すると、個人事業の「繰越期間 3年」は、かなり短いといえます。
たった3年では、黒字転換する前に「過去の繰越欠損金」が消滅してしまう可能性があります。長いスパンで事業運営を考えていくなら、法人化も有効な手段といえますね。
[ 参考リンク ]
- 国税庁「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
- 国税庁 「青色申告制度(純損失の繰越しと繰り戻し)」
⑥:決算期を変更できる
個人事業の場合の決算期間は、「毎年1月から12月まで」(12ヵ月)と固定化されていますが、法人の場合は決算期(事業年度の末日)を何月にしてもOKです(決算期を変更できます)。
しかも、必要に迫られた場合は、決算期を途中で短縮して、会計期間を 9カ月 とか 7カ月 に変更することも可能です(翌期以降は12ヵ月決算になります)。つまり、税金の計算期間を変更できるのです。
例えば「固定資産の売却益」など、多額の利益が出てしまった場合には、一旦決算することにより、利益がこれ以上増えないようにすることができるため、納税額を抑制できます。
ただし、あまり頻発して決算期を変えると、税務署から「他に何か隠してるんじゃないの?」「小手先の利益操作をしている会社は怪しい」といった具合に疑われかねないため、ほどほどにしましょう。
なお、定款に決算期を記載している会社の場合、株主総会の特別決議が必要です。決議に基づき、臨時株主総会議事録を作成し、その写しを税務署、都道府県税事務所、市町村役場に提出します。また、取引銀行(借入金融機関)など、必要に応じて連絡をしておきましょう。
⑦:法人から地代家賃を受け取れる
個人事業時代から使用していた社長名義の事務所・工場などを法人に賃貸する場合、法人から地代家賃を受け取ることができます。つまり、社長給与と家賃収入の両方を得ることができます。
もちろん、法人が支払う家賃は、(家賃相場を勘案した賃料であれば)その法人の損金(税務上認められている経費)になります。
個人事業主の「持ち家」の場合、事業主であるご自身に地代家賃を経費として支払うことはできませんので、この「法人からの家賃収入」は、法人化ならではのメリットといえますね(ただし、第三者から「賃借している物件」を自宅兼事務所として使用している場合は、面積や使用時間に応じて 家賃を按分負担することは可能です)。
ちなみに、個人事業主ご本人のみならず、「生計を一にする配偶者 や その他の親族に支払う地代家賃」も、必要経費になりません。ご注意ください(受取った側も家賃収入となりません)。
[ 参考リンク ]
- 国税庁 「やさしい必要経費の知識」