役員報酬の設定金額で節税効果が変わる?

節税対策&ヒント

役員報酬の金額設定は、「社外流出(納税額)を抑えるための 定番の節税対策」ともいわれています。「会社の売上高 & 経費(役員報酬除く)」は変化ないのに、「役員報酬の金額」を増やすだけで、トータルの納税額(会社の税金と役員報酬の税金の合計額)が大幅に減るんです。

・・・と聞くと、なんだか とてもカンタンな事柄 のようにも思えてしまいます。しかし、実際には どのような内容のものなのか、本当にすんなりとうまくいくのか、案外難しいんじゃないか … 等々、色んなことが思い浮かびます。様々な角度から この言葉の真相を探ってみたいと思います。

役員報酬を増やせば 節税になる?

冒頭でも少し触れましたが、同じ売上高、同じ経費(役員報酬除いた経費)ならば、役員報酬の金額を増やした方が、トータルの納税額(概算納税額)は大幅に減ります

理由は、「会社の利益に課される税率」(法人税等。国税+地方税)よりも「役員報酬(や従業員給与)に課される税率」(所得税+住民税)の方が 低い からです(ただし、個人の所得税も「超過累進税率」、すなわち所得増加に伴い税率が高くなりますので、一般的に額面で 2,000万円前後を境に 税負担等 がかなり重くなってきます。本ページでは、それよりも低い金額の役員報酬についてお話ししています)

税率の面から見たら、これが “結論” なのですが、実際の経営では 業績が目まぐるしく変化します。「事例1~3」のパターンで 実際の金額を当てはめてみて、多角的に検証してみることにします!

事例1:大幅黒字の場合

まず「事例1」として、「大幅黒字の場合」を検証してみます。

役員報酬が少なくて 、その代わり会社の利益が多くなっている 場合
役員報酬を多く設定した分 、会社の利益が少なくなっている 場合

の2つのケースを比較してみることにします。

前提条件として、「役員は1人」(配偶者あり。その他の詳細条件は 後述の ※ 参照)で、「役員報酬 と 税引前利益 の単純合計額を 1,200万円」(=役員報酬を差し引く前の会社収益が1,200万円)とすることとします。

役員報酬:年間 360万円、会社の税引前利益:840万円
(360+840=1,200万円)(1,200-360=840万円)
役員報酬:年間 960万円、会社の税引前利益:240万円
(960+240=1,200万円)(1,200-960=240万円)

両者の税金(概算納税額)を計算してみたところ、

役員の税金(所得税・住民税):約 15万円、法人税等(国税・地方税):約 247万円
税金合計 約 262万円
役員報酬の税金(所得税、住民税):約 120万円、法人税等(国税・地方税):約 75万円
税金合計 約 195万円

となります。よって、 よりも 67万円 少ない納税額で済む ということになります。

ここからわかることは、「事業で得られた金額は同じであるにもかかわらず、役員報酬の額が多い方が、概算納税額(トータルの社外流出)少なくて済む」ということですね。つまり、黒字(大幅黒字)の場合は、冒頭の内容が数字で証明されたことになります。

(※) その他の前提条件として、役員は「40歳以上、配偶者あり、扶養親族は16歳未満の子供のみ、生命保険の控除額4万円、社会保険料は健康保険と厚生年金のみ」とします。また、法人の税率(国税・地方税)は、2019年4月1以降&同年10月1日以降開始事業年度の税率を使用しています。

事例1 の補足:実際はそんなにうまくいかない

・・・ということで、「役員報酬を増やせば、トータルの納税額が減る」(節税効果がある)ことが ハッキリしました。しかし、「言うは易く 行うは難し」で、実際にはそんなにうまく操縦できないところが、経営の難しいところです。

「役員報酬の金額をいくらにするか」ということについては、「役員報酬の決め方」のページ(⇒ 特集記事はこちらでも触れましたように、社長にとっては “大変 悩ましいテーマ” です。

例えば、会社の売上や利益と不釣り合いな「過度の役員報酬」は、さすがにマズイですし(税務上否認される可能性あり)、役員報酬の額は「定期同額給与(⇒ 特集記事はこちら」で期初に固定化されるため、期の途中に金額を変更・訂正することはできませんね。

もちろん、向こう1年間の売上予想だって、実際にどうなるか、なかなか予測がつかないですから、単純に「役員報酬を増やせば、トクするじゃん!」とは ならないですね。

事例2:赤字の場合

ちなみに、「事例2」として、会社の業績が赤字(赤字続き)の場合を検証してみます。だいたい想像つくと思いますが、事例1とは「逆の結果」になります。さきほどの例を使って、数字で一応確認してみましょう。

役員報酬が少なくしたが 、それでも 会社の業績が赤字 になった場合
役員報酬を多く設定したら 、会社の赤字幅が更に拡大  した場合

役員報酬を差し引く前の会社収益が「300万円」あったと仮定します。役員報酬は前述の例と変えないこととします。

①’ 役員報酬:年間 360万円、会社の税引前利益(損失):-60万円
(300-360=-60万円)
②’ 役員報酬:年間 960万円、会社の税引前利益(損失):-660万円
(300-960=-660万円)

両者の税金(概算納税額)を計算してみたところ、

①’ 役員の税金(所得税・住民税):約 15万円、法人税等(地方税の均等割):約 7万円
税金合計 約 23万円
②’ 役員報酬の税金(所得税、住民税):約 120万円、法人税等(地方税の均等割):約 7万円
税金合計 約 127万円

となります。よって、②’ は ①’ よりも 104万円 も多い納税額を支払わなくてはならない ことになります(資本金1千万円以下の法人の場合、赤字であっても「地方税の均等割」(法人市民税 <法人市区町村民税> の均等割額:5万円、法人県民税 <法人道府県民税> の均等割額:約2万~2万2千円)、合計約7万円 が課税されます)

ここからわかることは、「事業で得られた金額は同じであるにもかかわらず、役員報酬の額が少ない方が、概算納税額(トータルの社外流出)少なくて済む」ということです。

つまり、赤字続きの場合は、役員報酬が多いと、税負担がそのまま重くのしかかるということですね。当たり前ですが、報酬が少なければ税負担は軽くなります。

ただし、ここで注意したいのは、概算納税額よりも「赤字基調の場合の役員報酬額」の方です。そもそも、赤字続きの時に 高額な役員給与 を受け取っていると、税務署から「金額が過大、利益操作の疑いあり」との指摘を受け、厳しくチェックされる可能性があります。業績が悪化しているときは、身の丈に合った報酬額に変更した方が、何かと良さそうですね。

事例3:役員報酬 次第で 黒字 or 赤字 に転じる場合

前出の事例1、2 は、それぞれ 黒字、赤字 のケースでしたが、次に役員報酬の額によって黒字になったり赤字に転落しそうなレベルの「中途半端!? な業績」の場合についても確認してみたいと思います。

①’’ 役員報酬が少なく設定 した年に、会社業績が黒字  になった場合
②’’ 役員報酬を多く設定 した年に、会社業績が赤字 になった場合

役員報酬を差し引く前の会社収益が600万円あったと仮定します。役員報酬は前述の例と変えないこととします。

①’’ 役員報酬:年間 360万円、会社の税引前利益:240万円
(600-360=240万円)
②’’ 役員報酬:年間 960万円、会社の税引前利益(損失):-360万円
(600-960=-360万円)

両者の税金(概算納税額)を計算してみたところ、

①’’ 役員の税金(所得税・住民税):約 15万円、法人税等(国税・地方税):約 75万円
税金合計 約 90万円
②’’ 役員報酬の税金(所得税、住民税):約 120万円、法人税等(地方税の均等割):約 7万円
税金合計 約 127万円

となります。よって、②’’①’’ よりも 37万円 多い納税額を支払う ことになります。

ここで気になるのは、(概算納税額のことも大事ですが)「会社の業績と役員報酬 ②’’ のバランス(役員報酬 960万円、税引前損失 -360万円)が適正かどうか」という点です。

過去の業績がどうだったかにもよりますが、前述の「大幅赤字 ②’ 」の時と同様、税務署から「金額が過大、利益操作の可能性を調査」という指摘が入るかもしれません。

つまり、この報酬額(960万円)を決定する際に、「過去の業績と今後の見通しを、報酬決定時にどのように考えたのか」「960万円の報酬が妥当だと判断した理由は何か」など、定期同額給与の決定時に しっかりと “理論武装” の準備をしておくと、後々対応できるんじゃないかと思います。

この辺りまで「業績と報酬のパターン」を想定しますと、「役員報酬の額を決めるのは、本当に難しい!」という気がしてきますね。

それでも、役員報酬設定のヒントになる!

以上より、「黒字の時は 役員報酬を増やした方が納税額は減る」ことは知っていても、また「赤字の時は 役員報酬を多く貰っていると、その分だけ税負担が重くなる」ことも理解していても、「実際には そんなうまく策定できない」ということがわかりました。

ただ、仮に予想しづらいとしても、年度初めの「役員報酬額を決定する際のヒント」くらいにはなるんじゃないかと思います。

つまり、役員報酬を「何となくのイメージ」で決めるのではなく、「最適な役員報酬はいくらなのか?」「会社の業績見通しはどうなりそうか?」「それらに伴う概算納税額はいくらになりそうか?」「業績と役員報酬のバランスに問題はないか?」といったことをハッキリ意識して検討すれば、そこそこの節税効果は得られるのではないかと思われます。

もちろん、アテが外れることもありますが、無計画に役員報酬の金額を決定するよりも、一度シミュレーションしてから決定した方が、その後の業績と役員報酬とを見比べながら 経営を行えますので、良い結果につながると思います。

また、こういった分析・検討の作業を繰り返すことにより、”副産物” として「年々業績を見通す精度も向上」してくると思います。