通勤手当は所得税が非課税! (給料手当・福利厚生費等)

会計・経理処理

徒歩通勤の場合、どうなるか?

徒歩通勤の場合、非課税限度額は0円です。つまり、福利厚生費として1円も費用計上できません。「2.マイカー・自転車… 」の項で、2キロメートル以上は 4,200円 となっていますが、これはあくまで自転車等(交通用具)を使用した場合の話であり、徒歩通勤の場合は、費用計上は認められていません。

徒歩通勤なら、交通機関・交通用具利用などの実費負担がないわけですから、通勤手当を支給する根拠とはなりませんね。もし徒歩通勤の人に通勤手当を支給すれば、給与とみなされ、所得税の課税対象になります(全額課税)。

通勤手当は「社保・標準報酬月額」の対象

標準報酬月額に含まれる!

ここで、ちょっとややこしくなるのですが、前述のとおり、通勤手当の支給分については(一定の条件を満たせば)所得税が非課税となりますが、社会保険料の標準報酬月額の対象となる報酬には含まれますので、ご注意ください。

理由は、事業所の給与規定に定めのある通勤手当は、「労務の対償として受けるものである」とされているから、なんだそうです(”対償”は “対価” の意味。詳細については、以下のリンクをご参照ください)

例えば、電車通勤の手当が6万円かかっているとすると、所得税は6万円の定期券代に対して所得税はかからないのですが(通勤にかかる 電車定期券代 や 高速道路代 は、15万円まで非課税)、社会保険料は「その6万円を足した額」を基にして算出し、差し引かれることになります。つまり、社会保険料の金額が増えるため、給料の手取り額が目減りします。

「通勤距離の大小」で社会保険料が変わるのは、おかしい!?

まず、「通勤手当を社会保険料の月額報酬の中に含める」ということは、この通勤手当を「労働の対価」とみなしているということになります。

「勤務している会社が自宅から遠いか、近いか」という単純な違いだけで、労働対価の額が変わり、そして社会保険料の額が変わるのは、少し不思議!? な感じもします … が、日本年金機構(厚生労働省)としては、そういう考え方で統一しています。

一方、税務上(所得税・住民税)は、一定限度額(15万円)までは「会社の経費」的なものとして処理することを容認していて(会社への通勤に関する実費を補填することを目的としている。所得や労働対価とはみなしていない)、限度額を超えると人件費として課税する(所得税の課税対象)、という扱いになっています。

ただ、そういう抽象的な理念は置いといて、… 現実的な視点から「通勤費(通勤手当)を報酬として捉える」ことが “悪” かというと、そんなことも無さそうです。

これはあくまでも私見ですが、まず「社会保険料の負担増で手取り額は減りますが、一方で 将来の年金受給額 は増えるため、一概に 損 とは言い切れないこと」(長生きするのが前提ですが、数十年後にメリットとして返ってきます)、また「現実に 会社→社員へ お金が動いていること」、そして「勤務先は、従業員が自らの意思で選択できるものであること」などが考えられるからです。

実際に、厚生労働省内で、副大臣や政務官を交えて「社会保険料・労働保険料の賦課対象となる報酬等の範囲に関する検討会」なるものが時々実施されているようです。賦課対象とするかどうかの議論をしていないわけではない、ということですね。

[ 参考リンク ]

税抜経理の場合 通勤費の消費税は「課税仕入れ」で処理

前ページで、一定限度内の通勤手当は、所得税が非課税となっていることをお話ししました。一方、通勤費として支払う電車運賃(通勤定期券)や高速道路料金には消費税が含まれています。

このため、税抜経理を選択している会社の場合は、非課税限度額の範囲内の部分の消費税は、「仮払消費税」で処理するのを忘れないようにしましょう(借受消費税と相殺できるため、忘れると損します)。なお、税込経理を選択している場合は、消費税の部分を区分けせずに処理すればOKです。

[ 参考リンク ]

課税・非課税、社会保険のまとめ

「所得税」や「消費税」の話、そして社会保険の「標準報酬月額」の話などがいっぱい飛び交いましたので、話がゴチャゴチャしてきました。これらを表にまとめますと、以下のようになります。

内容 (勘定科目) 所得税 消費税 社会保険 金額一例
給与 (給料手当) 課税 不課税 標準報酬 40万
通勤費 (給料手当、福利厚生費 等) 非課税 課税仕入 標準報酬 15万
通勤費の限度超過分 (給料手当、福利厚生費 等) 課税 課税仕入 標準報酬 5万
通勤費の消費税 (仮払消費税) 標準報酬 2万

【 所得税の非課税対象は、税抜の通勤費の部分 】
所得税の非課税対象となる部分は、「税抜きの通勤費」の部分になります。例えば、上表のように電車の定期券代が22万円(税抜 20万円、消費税 2万円)だったとした場合、所得税の非課税限度額が上限15万円と定められていますので、所得税の非課税対象は「税抜きの通勤費 15万円」となります。

【 通勤費は、所得税の限度額に関係なく、全額 課税仕入 】
また、所得税の非課税限度額に関係なく、通勤手当(定期券代)全体が全額課税仕入れ扱いとなりますので、消費税2万円は仮払消費税で処理します。

【 社会保険料の報酬計算時には、税込の通勤費を加算 】

なお、電車の定期券代 22万円は、消費税も含めて その全額が「社会保険料の標準報酬」として扱われますので、社会保険料の等級を決める際は、そのまま合算してください。

通勤手当の仕訳処理

通勤費(通勤手当)は、所得税法上の非課税所得として取り扱われるため、「給料」なのか、「福利厚生費」なのか、「旅費交通費」なのか、どの勘定科目で処理するべきか、迷うところです。

非課税限度額を超えた場合は、給与とみなされることもあって、「給料手当」の勘定科目を使って処理している会社もたくさんあります。

また、「従業員の福利厚生目的の給与所得であるため、非課税となっている」という考えから、人件費の中でも「福利厚生費」の科目を使用している企業もあります。「食費」などと似た性質のものとして捉えているということですね。

一方、一定限度額までは「会社の通勤にかかる実費の補填という扱いである(労働対価ではない)」という考えから、「旅費交通費」の科目を使用している企業もあります。

ただし、旅費交通費は「役員や従業員が業務を行うため、勤務先以外の場所へ移動するのに要した費用」のことをいいますので、”通勤” と “業務の旅費” とを同じ科目に入れることに抵抗感を持っている人も少なからずいることは確かです。

このように、考え方によって判断が分かれますので、顧問税理士の方針や社内の意向を汲み取って決めるといいですね(ちなみに、下の仕訳例では、「給料手当」の科目を使用・記載しました)。

【 通勤費の仕訳処理(給与支給と一緒に行っている場合)】

 (借 方)  (貸 方)
給料手当 (基本給) 300,000 普通預金 or 現金 247,550
給料手当 (通勤費) ※1 4,000 預り金  6,850
仮払消費税 (通勤費) ※2 400 預り金  5,000
(↳税抜経理の場合) 預り金  45,000

※1:通勤費を計上する際に使用する勘定科目は、「給料手当」の他に「福利厚生費」「旅費交通費」などの科目を使用する場合もあります。顧問税理士さんの方針に従って 決定するとベターです。
※2:電車の定期券代4,400円を会社で負担する際は、「税抜経理」の場合は 通勤費にかかる消費税「仮払消費税 400円」と 税抜き価格に相当する部分「給料手当 4,000円」とを 区分けして仕訳しましょう(売上等にかかる消費税と相殺するため)。なお、税込経理の場合は、消費税の部分も合算して「4,400円」とすればOKです。

1人分の給料の計算方法を確認してみましょう(10km未満のマイカー通勤で4,400の通勤費支給の場合)

  1. まず、天引き前の額面の給料 300,000円 から社会保険料(304,400円に対する社会保険料:便宜上 45,000円 とします)を差し引き、
  2. 次に、差し引いた金額(304,400円-45,000円=259,400円)に対する源泉所得税を 国税庁の「源泉徴収税額表」を使って金額を確定し控除(6,850円)
  3. 同時に、市県民税(便宜上 5,000円 とします)を差し引き、
  4. 最後に、通勤手当 4,400円 を実際の支給額に加えれば、 残額が手取り給料 247,550円 となります。

つまり、まず最初に 上記仕訳の左側(借方)の金額を決定し、次に右側(貸方)で 差し引くべき税金や保険料 を決定し、最後に余った金額(247,550円)を実際の支給額として決定します。

借方・貸方の各合計金額が一致(304,400円)すればOKです(なお、上記仕訳では 「未払給与分の仕訳」 の記載を省略しています)。

[ 参考リンク ]

 

給与と通勤手当は合算せずに別個に処理

通勤手当込みの給与の支給は、所得税の課税対象となります。

上の仕訳例のように「給料手当」の勘定科目を使用するとしても、「給与の支給分」と「通勤手当分」は別個の取引として処理(仕訳)するようにしてください。

合算して計上すると、通勤費も所得税の課税対象となってしまいます。ご注意ください。